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<転載> 2004 スコットランド記 ㉙アンナさん(仮称)といっしょ(10日目)

飛行機で誰かがとなりの席になることはめずらしくないけれど、
最初っから仲良くお話できる、というのはめずらしい。

アンナさん。(何度も言うけど)ステキな人だったよ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 以下、転載




スコットランドにやって来たときの記憶は鮮明だ。
これにも書いてるよね。
空から見た風景。晴れ渡ったブリテン島は大地の彩りも鮮やかで、初めて訪れる国にワクワクした。

スコットランドを立つ、このときのフライト。
帰国の空はアンナさん(仮称)と眺めた。

にこにこ。
にこにこ。

アンナさん(以後略)とは最初っから気が合った。

「スコットランドにはどうして来たの?」
「旅行です。これから日本に帰るところです」
「私は仕事で来たの。スコットランドでプラニングの会議があったのよ」
「どこに帰るんですか」
「ドイツよ」

ビジネスでスコットランドに来たというアンナさんは、確かに真っ黒い平らな書類バックを抱え、服装は上下そろったパンツスーツだった。ショートボブの髪色は明るい薄茶で、瞳の色も同じだった……ような気がする。
女性としては、背丈も肩幅もある、がっしりとした印象が拭えない彼女。でも、彼女の雰囲気は大地のように穏やかで、太陽のように温かだった。
隣にいると、私も安心できた。―――不思議なぐらい。

窓に青い海と灰色に曇った街並みが映し出された。グラスゴー上空。アンナさんも身を寄せてきた。お互い、にっこり。

「日本に来たことありますか」
「いいえ」
「アジアの辺りにも?」
「行ったことないのよ」

シートに備え付けのパンフレットを手に取り、世界地図を見ながら会話する。

「そーですか……。またアジア方面にも来て下さいね」
なぜか、ぜひ日本に来て下さいとは言えなかった私。
「私はいつかここに行ってみたいのよ」アンナさんが指差したのは南米、西岸辺り。
「あー、私も行ってみたいです」

ペルーやチリ。インカ帝国で有名なアンデス文明の中心地。マチュピチュやナスカの地上絵など数々の遺跡がある、日本人にも人気の高い場所だ。
(日本にはあまり興味がなさそうだなあ)……ガッカリ
ヨーロッパにはまだアイルランドにしか行ったことがないと私が言うと、

「そうね。例えば、オランダ1日、ベルギー1日、フランス1日みたいに旅行するとたくさんの国に行けるわよ」
「はあ」

そんなスキップ旅行、もう1国を観光していると言えないのでは?
とはいえ、ヨーロッパ人の感覚ではこれが普通なんだろう。日々の生活で国境を越えることなど、めずらしくもなんともないんだろうな。
……アジアはそうはいかないからね。同じ感覚で旅行しないでね。

時間が経つにつれてますます仲良くなった。プライベートな質問もしてみる。

「ドイツのどこに住んでいるのですか?」
アンナさんはちょっとだけ笑って、口をすぼめて、低い音を出した。
「ヴォーデン」
「ヴォーデン……」
「ベルリンを知っている?」うなづく私に、「ベルリンの北東、ポーランドに近いところにある街よ」
つまり、昔は東ドイツだった所か。
「ドイツも旅行してみたいです。でもドイツ語が話せない」
「大丈夫! ドイツは英語も通じるわよ」
実際、アンナさんの英語は聞き取りやすく、グラスゴー語より英語だった。
「あ、でも、知ってるドイツ語、あります」
「何?」
「Danke」
アンナさんの顔がほころんだ。

あれ? 間違ってないよな。アレ?

「……日本語では何て言うの?」
アンナさんが即座に聞き返してきた。
「え、えーと」ヘボヒアリング能力がここでも発揮。
アンナさんはゆっくりと語句を区切って繰り返してくれた。
「日本語で、Dankeは、何て言うの?」
(あ、そういうことか)
私もゆっくりと区切って言う。
「あ・り・が・と・う、です」

A・ri・ga・to

初めて出す音のように、口真似をするアンナさん。

アンナさんのことを思い出すたび、このエピソードがとても大切なものに思えてくる。
余りにも彼女の文化圏とは違う音声に、覚えてくれたかどうかはわからないけれど、どの日本語の言葉より、この日本語を教えてあげることができてよかったと思う。
唯一知っていたドイツ語がこれで本当によかった。

正確には Danke schon なのはつっこまないでね。

彼女は私に対しては絶えず優しく、包み込む大らかさがあった。
まあ、それは、彼女の人柄

……絶対、年下だと思っているな。

それも5〜10歳ぐらい年下に。


アンナさんはヨーロッパ人の平均的外見から推し量ると、20代後半から30代前半に見えた。
いや〜、ね、もーしかしたら、私の方が年上かもよ。あはは。

……でも、たとえそうでも、アンナさんは私にとって、間違いなく、理想的な年上の女性だった。もう、マミーでも構わない。

「ドイツはお城がいっぱいありますよね。私、古いものが好きなんです」
「そうなの? ドイツには城はいっぱいあるわよ」
「あ、あれ……、ノイシュヴァンシュタイン城とか、見てみたい」
「でも、あの城は古くないわよ」
「あ、そーですね」(19世紀だもんな)

グラスゴーからアムステルダムまで1時間半ほどの短いフライト。
スチュワーデスが機内食を運んできた。アンナさんが私にコーヒーを渡してくれる。あと、雑穀パンのサンドイッチ。
KLMは機内食がおいしいから好き。
アンナさんと食事をしながら、だんだんと近づいてくるヨーロッパ大陸の影を窓に見た。


                 ☆☆☆


日本に戻ってから、本屋に行き、ドイツの地図を開いた。アンナさんの街を探してみる。
ヴォーデン、ヴォーデン……。
それらしい街が見当たらない。
もしかして、ものすごく小さい街? バーデンは南の州だしなあ。
(う〜ん、ここにそれっぽい綴りがあるけど、これかな?)

ヴォーデン。
私のヘボ耳が聞き取った音。

アンナさんの手がかりはたったそれだけ。


                  ☆☆☆


スキポール。アムステルダム国際空港。
飛行機と空港をつなぐ通路を抜けると、オレンジ色のゲート番号が並ぶ馴染みのロビーに出た。
高身長のアンナさんが私の前に立った。少しかがみがちになって、私にささやく。
「日本までいい旅をしてね」
そこでやっぱりお約束の聞き返しをする私。ワンテンポどころか、数テンポ以上遅れて、私も最後のお別れを言った。
「ありがとうございます。あなたもいい旅を」

私は日本に、アンナさんはドイツに帰るため、再び飛行機に乗る。
アンナスマイルは別れのときまで健在だった。
ナチュラルで気負いのない笑顔。
相手を見つめる和やかな眼差し。

あんなステキな女性はなかなかいない。
あんなあったかい女性はなかなか……

















泣。


アンナさんという仮称は私がつけました。実名を聞けばよかったとは思うけど、これはこれでいいのかな。
私の中では彼女の名前になっています。
ちなみに“アンナ”とは大地の力強さと温かさを持った女性の名前として(常日頃)使用しています。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 転載終わり




“ヴォーデン”って、今探してもわからないんだよね。
聞き間違えたのかな? 残念。

しかし、ドイツ……。
ドイツに行きたいと思う原動力がない。『グリム童話』か? 「ヘルマン・ヘッセ」か? 「ホフマン」か? それとも「城」か?
結構馴染んでいるのに、なぜだろう。

あ、“島”ではないからか。


by mao-chii | 2017-08-01 22:43 | 旅の話 | Comments(0)

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